BOROWSKY plays LISZTレスリー・ハワード: リスト ピアノ作品全集 Disc.92

June 20, 2013

リストのややこしい事2 -悲しみのゴンドラ編-

フランツ・リストがワーグナーの死を予感して書いたといわれる「悲しみのゴンドラ」について少しまとめてみたいと思います。

● 試聴はこちらからどうぞ
YouTube: 悲しみのゴンドラⅠ S.200/1  
YouTube: 悲しみのゴンドラⅡ S.200/2    

● 番か稿か?
フランツ・リストの日本語版CDを購入されたことがある方はそこで「悲しみのゴンドラ 第1稿」と書かれていたり「悲しみのゴンドラ 第1番」と書かれているのを見たことがあると思います。これは非常に微妙な問題で、結論から言いますとどちらも正しいし、どちらも間違いです。
まずS.200/1とS.200/2の両曲を第1稿/第2稿という風に同じ曲のバージョン違いだと仮定してみましょう。あまり知られていませんが悲しみのゴンドラにはS.200/2の直接の前身となる「ヴェネツィア第1草稿」なるものがあります。これは近年発見され、2002年にイタリアのルッジネンティ社が世界で初めて出版しました。おそらくこれが「悲しみのゴンドラの初稿」と呼べるものであるので、そうなるとS.200/1とS.200/2はそれぞれ第2稿/第3稿と呼ばねばいけなくなります。しかもS.200/1とS.200/2は作曲された順序が逆なのでS.200/1を第3稿、S.200/2を第2稿と呼ばねばならなくなってしまいます。
では逆に両曲を第1番/第2番と別の曲と仮定してみましょう。S.200/1はS.200/2の派生作品であることに変わりはないので、別の曲とみなすのも難しいです。ちなみに両曲ともに「第3エレジー」という副題があります。もし両曲が別の曲だと判断するなら「第3エレジー/第4エレジー」とならなくてはいけないような気がします。
このように「第1稿/第2稿」と呼ぶべきか「第1番/第2番」と呼ぶべきかは微妙なので、当ブログでは呼称を「悲しみのゴンドラⅠ」「悲しみのゴンドラⅡ」としています。

● 順番 
- 1882年: 悲しみのゴンドラ 〔ヴェネツィア第1草稿〕 S.199a (2002年初版)
- 1882年?: 修正譜 "悲しみのゴンドラ" S.701k
- 1883年/1885年: 悲しみのゴンドラⅡ S.200/2 (1885年初版) 
- 作曲年不明: 悲しみのゴンドラⅠ S.200/1 (1927年初版) 

1882年に第1草稿が作られます。そしてリストがある手紙にその作品への9小節の改訂パッセージを書きます。これがS.701kの修正譜です。上でも少し書きましたがⅠとⅡは作曲された順序がおそらく逆です。Ⅰが作曲された年は不明ですが、リストの死が近づいた時期だと言われています。1927年にⅠが初めて出版されるのですが、その時にⅡとセットで出版することになり順序が逆の番号が付けられました。

関連記事: リストのややこしいこと1 -アヴェ・マリア編-  


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ミッチ at 09:42│Comments(4)TrackBack(0) リストのこと 



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この記事へのコメント

1. Posted by yoshimi   June 22, 2013 09:43
こんにちは。
「リストのややこしい事」シリーズは、いつもと違った切り口でまとめられているので、リスト作品に詳しくなくてもわかりやすくて良いですね!

”ゴンドラ”の曲というと、私がすぐに連想するのはメンデルスゾーンの無言歌集にある”ベニスのゴンドラ”です。(たぶん子供の頃にピアノのレッスンのために弾いていたからでしょう)
初めてリストの曲を聴いたときは、ロマン派風のタイトルがついているのでもっと普通に叙情的な曲かと思っていたら、全然違ってました。
”悲しみ”を通り越して、陰鬱で凶運が迫ってくるような不気味さが漂ってます。
もう無調の世界にあと一歩...というところですね。

どちらかというと、Ⅰの方がずっと不吉で不気味さな感じがします。
Ⅱの方は、中盤になると波間に漂うゴンドラのように揺れ動く旋律がとても美しくて、ファンタスティック。この部分があるので、私はⅡの方が好きです。

この2曲は、随分前に(たぶん)ハフのリストアルバムで聴いた曲ですが、リンクを貼ってもらっているYoutubeの音源を聴いて、思い出しました。リストの晩年はこういう暗くて陰鬱な曲が多いですね。
たまたま気がつきましたが、ハフの国内盤CDの試聴ファイルには、第1変奏・第2変奏と表記してました。
2. Posted by ミッチ   June 22, 2013 20:13
こんにちは!コメントありがとうございます!

「ゴンドラの唄」といえば、おそらくほとんどの方がバルカローレ(ベニス発祥の舟歌)を連想すると思います。クラシックでそれをジャンルとして採用したのは、yoshimiさんがおっしゃっているメンデルスゾーンの作品もそうですし、ショパンの舟歌も有名ですね。
一方リストは直接的にベニスの民謡を編曲した作品があり「巡礼の年 第2年 補遺 ヴェネツィアとナポリ」に収録しています。
https://www.youtube.com/watch?v=U9x2kVzOH7Q
この「ゴンドラ漕ぎの女」は映画「ローマの休日」でさりげなく使われていますが、イタリアになじみ深いメロディだったからでしょうか?
あまり知られていませんがこの民謡はベートーヴェンも編曲しています。
https://www.youtube.com/watch?v=42VDZkZGTQY

リストはワーグナーにベニスのヴェンドラミン館に招待された時に悲しみのゴンドラを着想しました。おそらくリストの念頭にも「ベニスと言えば舟歌=ゴンドラ漕ぎの唄」という連想はあったと思います。しかし本文で書いたように、この曲はワーグナーの死を予感して書かれたものですし、リスト自身も晩年は失意の底にいることが多かったのでのどかな曲を書く気にはなれなかったのではないでしょうか。そしてワーグナーは実際にその地で亡くなり、その遺体はゴンドラでベニスの運河を運ばれることになります。
そして面白いことにⅠの方は6/8拍子なので舟歌を意識していることがわかります。Ⅱの方はなるほど確かに、おっしゃるように波間を漂うゴンドラの揺れ動く様を表しているかのようですね。この作品はリストの「葬送曲風舟歌」なのかもしれませんね。
3. Posted by yoshimi   June 23, 2013 01:45
こんばんは。
詳しく解説してくださって、どうもありがとうございます。いろいろ興味の魅かれるお話で、勉強になりました。
それに、Youtubeのリンクもありがとうございます。

ケンプの弾く「Gondoliera」はとっても綺麗な曲ですね!
こんなに美しい旋律なら、「ローマの休日」にだって使えますね。
「巡礼の年」(第2年)のCDはいくつか持っているのですが、この曲は聴いた記憶がないので、第2年の録音には補遺が収録されていなかったのかもしれません。(CDの収録枚数の制約のためだと思いますが)

同じ民謡を素材にしても、リストは芸術的に昇華した美しさがあるのに対して、ベートーヴェンとなると当時の民謡そのままの雰囲気が残っているような曲になっていますね。

ゴンドラは、運河を通行する運搬船ですから、昔から、ワーグナーのように遺体を水上で運んでいたのですね。
そういえば、『仮面の中のアリア』という音楽映画のラストシーンでも、真っ白な布に包まれたバリトン歌手の遺体を、小船(たぶんゴンドラ)に載せて湖上を運んでました。
そういう意味では、「悲しみのゴンドラ」というのは、「葬送曲風舟歌」と言えるのでしょうね。”死を運ぶ”という隠喩があるのかもしれません。

4. Posted by ミッチ   June 23, 2013 20:05
こんばんは!

ケンプが牧歌的な曲を弾くとすごくいいですよね。

民謡の編曲についてですが、リストは「巡礼の年」という重要な曲集に含めるための作品で、ベートーヴェンの方は(詳しくはわかりませんが)Op番号が付いていないくらいの作品なので、気合の入り方も違うのではないでしょうか(笑)

おお、そのような映画があるのですね。情報ありがとうございます!

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