リストのこと

September 13, 2016

ブレンデルは語る -リストについて-

ブレンデルのリストについてのコメントをご紹介します。

"ロマン派におけるピアノの天子であり、宗教的ピアノ作品の創始者でもある。音楽的巡礼の編者であり、トランスクリプションやパラフレーズの飽くなき熟達者でもある。近代音楽の急進的先駆者であり、セザール・フランク、スクリャービン、ドビュッシー、ラヴェル、メシアン、リゲティの音楽的源泉でもある。

リストのピアノ音楽を深く知れば、彼が至高のピアノ芸術家であることが実感できるであろう。これは彼のピアニスティックな超絶的技術の話をしているのではなく、表現力の到達点のことを言っているのだ。シューマンが述べたように「表現の天才」であるリストのみが、ピアノが表現しうるどこまでも続く水平に光を照らすことができるのだ。ここでペダルが非常に重要なモノとなることは言うまでもない。

ロ短調ソナタ、巡礼の年、"泣き、嘆き、憂い、おののき"変奏曲、悲しみのゴンドラ、そして上質ないくつかのエチュードなどを例に出すに留めるが、リストの傑出したピアノ作品群はショパンやシューマンらの代表作と比肩しうると私は考えている。ロ短調ソナタについてはそのオリジナリティ、大胆さ、表現力の幅により、ベートーヴェンとシューベルト以降に書かれたこの類の作品全てを凌駕しているのだ。

今日リストの作品は過度なスピードで演奏されている。それ自体を目的とした技巧的な豪華絢爛さはリストにふさわしくない。また一見耳障りの良いものや、なよなよとしたものは避けなければならない。ヴィルヘルム・ケンプによる1950年録音の伝説第一番「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」が極上のクオリティによる詩的なリスト演奏を体現しているのだ。"

外部リンク: the guardian / An A-Z of the piano: Alfred Brendel's notes from the concert hall 

〔メモ〕 
この文章からブレンデルのリストへの敬愛がとても強く感じられます。そしてリストに対する誤解を少しでも解こうという彼の気持ちがのぞけるような気がします。ブレンデルが最も多く取り上げた作曲家はモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトそしてリストです。リストはワーグナーと共に新ドイツ楽派と言われています。ブレンデルはリストをドイツ・オーストリア圏の作曲家として扱っているような印象を受けます。「ハンガリー出身のロマン派の作曲家」という見方ではなく「ベートーヴェンやシューベルトの精神を受け継ぐ作曲家」という観点を持っているのではないでしょうか。観点の違いによりリストの音楽への接し方が変わってくると思います。

関連記事: シェーンベルク「フランツ・リスト その活動と本質」 
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March 27, 2016

アンスネスは語る -リスト録音-

ネットラジオでピアニストのアンスネスがリストの録音について語っていました。簡単にまとめてみたいと思います。


● リスト録音との出会い
「記憶が曖昧だけど、たぶんマルタ・アルゲリッチの演奏するピアノ協奏曲やソナタだったと思う。子供の頃に僕は愛の夢やコンソレーションは演奏していたけど、こんな曲を演奏するなんて不可能だと思ったよ。印象的で色彩感に溢れ、3人のピアニストが演奏してるのかと思った」

● リパッティのペトラルカのソネット104番 
「これまでに存在した最も偉大なピアニストの一人。最も大きな影響を受けた。ピアニスティックに完璧で洗練性の極致で比類がない。流れが自然で自発性に富んでいる」

● カペルのハンガリー狂詩曲11番
「燃え盛るような情熱があり、確信に満ちている。このような曲はノンシャランにお行儀よく演奏されることが多いけど、カペルはリスクを恐れずにドラマを創出してる」

● ファウスト交響曲について
「信じられないくらい先進性がある。友人のアントニオ・パッパーノも興奮気味に言っていたが、チャイコフスキーへ大きな影響を与え、そして12音技法のように書かれた部分もある。とても野心的でワーグナーがこの曲を気に入ったのも不思議ではない」(バーンスタインのファウスト交響曲が流れますがこれはアンスネスではなくDJのトム・ハイゼンガが録音を選びました)

● ユジャ・ワンのロ短調ソナタ 
「フレッシュでラプソディック。無限の可能性を感じる」

● アムランのハンガリー狂詩曲2番 
「彼は作曲家的な視点も持ち合わせていてカデンツァを作曲している。そこでは聴いたこともないような豪華絢爛な技巧が繰り広げられる。ヴィルトゥオジティというものは楽しくてエキサイティングなものだね」

● 自身の演奏するノネンヴェルトについて
「この曲は自然的、瞑想的であり情景を感じることができる。巡礼の年のような作品もそうだが、聴衆に映像や匂いを感じさせることができる」 

● ゲザ・アンダの森のざわめき
「アンダはお気に入りのピアニストですが、過小評価されてます。この演奏はサプライズに満ちていて、自発的で推進力がある。こういうサプライズは普通計算されてなされるものだけど、彼の演奏は計算がなく自然」

● バルトークのスルスム・コルダ 
「これは録音も悪く、ミスタッチもありますが興味深いので選びました。この曲は通常静的に演奏されることが多いですが、彼の演奏は内的エクスタシーと幸福感が感じられます」

〔感想〕
アンスネスは現在、世界の第一線で活躍しているピアニストですが、そのようなピアニストでも新旧問わずいろいろな録音を聴いているんですね。やはりリパッティのペトラルカは名演ですね!ものすごい興味深い会話でした。途中でリストのことについても語っていました。「リストはある意味で底の浅いポップスターでいることもありました。ピアニスティックな観点から言えば見事な曲でも、底の浅い曲もいくつかあります。彼は聴衆を目の前にしてどのように成功するかを計算していた部分もあります。そういう意味では現代人のようでもありますね。しかしだからと言って彼に精神性の深い部分が無いということではないのです。例えばブラームスは多くの作品が素晴らしいので偉大な作曲家とみなされます。一方リストは底の浅い作品もいくつかあり、そして偉大な傑作も残しています。底の浅い作品があるからリストはそれほど偉大な作曲家ではないと言う人もいますが、私はそうは思いません」とアンスネスは語っています。僕が思うにこの意見はとても真っ当であり、フェアな見方だと思います。アンスネスがリストを誤解無く捉えてくれているのは嬉しいです。彼は最近あまりリストを演奏していないようですが、これからも期待したいです。

関連記事: liszt piano recital: leif ove andsnes 


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March 17, 2016

リストのややこしい事4 -ラーコーツィ行進曲編-

ラーコーツィ行進曲はハンガリーの民俗旋律で国民に親しまれた旋律です。ハンガリーの国歌「賛称」が制定される前、ラーコーツィ行進曲は非公式の国歌のような扱いだったそうです。フェレンツ・ラーコーツィⅡ世が好んだためこの名前が付けられました。日本ではラコッツィ行進曲と呼ばれることもあります。リストもこの旋律にちなんだ曲をいくつか書いています。ここではピアノ独奏曲をまとめてみたいと思います。

試聴はこちらからどうぞ(YouTube)

● 代表グループ
- 〔A〕ハンガリー狂詩曲 第15番 ラーコーツィ行進曲 S.244/15
- 〔B〕ハンガリー狂詩曲 第15番 ラーコーツィ行進曲 〔異稿〕 S.244/15bis
- 〔C〕ラーコーツィ行進曲 〔普及稿〕 S.244c
まず「リストのラーコーツィ行進曲」と言えばハンガリー狂詩曲のもの〔A〕を指します。リストの代表曲の一つとして親しまれています。〔B〕はそのオッシアを演奏した異稿であり、〔C〕は〔A〕を簡素にしたものです。

● 前身グループ
- 〔D〕マジャール狂詩曲 第13番 ラーコーツィ行進曲 S.242/13
- 〔E〕ハンガリーの民俗旋律 (ラーコーツィ行進曲 マジャール狂詩曲 第13番a) S.242/13a
- 〔F〕ジプシーの叙事詩 第7番 ラーコーツィ行進曲 S.695b/7 
マジャール狂詩曲という曲集はハンガリー狂詩曲集の前身となるものです。つまり〔D〕が発展して〔A〕となります。〔E〕は〔D〕の簡易稿です。〔F〕は楽譜が書かれておらず「マジャール狂詩曲 第13番(おそらく簡易稿)を挿入するように」という指示があるだけなので、つまり〔E〕=〔F〕となります。

● 編曲グループ 
- 〔G〕ラーコーツィ行進曲 〔管弦楽稿より編曲〕 S.244a
- 〔H〕ラーコーツィ行進曲 〔管弦楽稿より簡易編曲〕 S.244b 
リストはラーコーツィ行進曲の旋律を使用して管弦楽作品も書いている。〔G〕はそのトランスクリプションであり、〔H〕は〔G〕の簡易稿。 

● その他グループ
- 〔I〕ラーコーツィ行進曲 〔第1稿〕 S.242a
- 〔J〕ラーコーツィ行進曲 〔第1稿・異稿〕 S.692d
- 〔K〕アルバムリーフ "ラーコーツィ行進曲" S.164f 
〔I〕は1839年辺りに書かれた、ラーコーツィ行進曲を使用した最初期のピアノ作品。〔J〕は〔I〕の簡易稿だが未完。〔K〕は戯れに書いたと思われる20秒弱の楽想。

● ホロヴィッツ
- ラーコーツィ行進曲 〔ホロヴィッツ編〕
ベルリオーズもラーコーツィ行進曲を使用した管弦楽作品を書いている。そのベルリオーズ版の編曲とリストのピアニズムを参考にしてホロヴィッツが再編成したものがこのホロヴィッツ版ラーコーツィ変奏曲。
ホロヴィッツ版の試聴はこちらからどうぞ(YouTube) 

関連記事: リストのややこしい事1 -アヴェ・マリア編- 
関連記事: リストのややこしい事2 -悲しみのゴンドラ編-
関連記事: リストのややこしい事3 -子守歌編- 


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November 07, 2013

リストのややこしい事3 -子守歌編-

まずはこちらをお聴きください。

YouTube: ベルスーズ (Berceuse) S.174 
YouTube: ヴィーゲンリート (Wiegenlied) S.198  
YouTube: シュルマーリート (Schlummerlied) S.186/7  

あえてタイトルは原語をカタカナで表記しました。ベルスーズはフランス語、他2つはドイツ語です。これら3曲はリストによる子守歌であり、実際そのように呼ばれることが多いです。はじめに言いたいことはこれら3曲を「子守歌」と呼ぶことは問題なく、訳語としても誤りではないということです。しかし区別がしづらいということで別の呼称で呼んではどうかという提案をしてみたいと思います。 

● S.174 子守歌 (ベルスーズ)  
ショパンの同名曲へのオマージュとして書かれたと言われる曲です。そのショパンの曲(Berceuse)も日本では子守歌と呼ばれていますので、この曲は「子守歌」で良いと思います。   

● S.198 ゆりかごの歌 (ヴィーゲンリート)  
ヴィーゲは「ゆりかご」、リートは「歌」という意味ですので、「ゆりかごで歌う歌」ですからすなわち「子守歌」となるわけですが、これはそのまま「ゆりかごの歌」でもよいのではないでしょうか。リストの伝記の執筆者である福田弥さんもこの呼称を使用しています。またこの曲を「ゆりかごの歌」と呼んでもよいと思えるもう一つの理由があります。それはこの曲がリストの交響詩「ゆりかごから墓場まで」の旋律を使用しているからです。ブラームスの有名曲にも同名の曲があります(Op.49/4)。

● S.186/7 まどろみの歌 (シュルマーリート)  
曲集「クリスマスツリー S.186」のなかの一曲です。シュルマーは「眠り/仮眠」、リートは「歌」という意味です。眠りの歌ですので、「子守歌」と呼ばれるようになったのでしょうか。シューマンにも同名の曲があります(Op.124/16)。ドイツ語「シュルマー」はニュアンス的には「うとうとする」という感じですので、呼称は「まどろみの歌」でもよいのではないでしょうか。

○ 補足 
S.198は「ヴィーゲンリートは訳すとゆりかごの歌なので、ゆりかごの歌と呼んでもよいのでは」と書きました。フランス語でゆりかごはベルソー(Berceau)なので、ベルスーズ(Berceuse)もゆりかごの歌というニュアンスなのかと思います。  

○ その他
他にリストが書いた作品では「眠りから覚めた御子への讃歌 S.173/6」も元々我が子への子守歌として書かれたものらしいです。また他には「墓場の子守歌 S195a」という作品もありますが、これは「エレジー 第1番 S.196」の初稿なので曲種としてはエレジーですね。そしてリストの編曲作品として「ウェーバーの子守歌 S.454」などもあります。

関連記事: リストのややこしい事1 -アヴェ・マリア編-  
関連記事: リストのややこしい事2 -悲しみのゴンドラ編-  


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June 20, 2013

リストのややこしい事2 -悲しみのゴンドラ編-

フランツ・リストがワーグナーの死を予感して書いたといわれる「悲しみのゴンドラ」について少しまとめてみたいと思います。

● 試聴はこちらからどうぞ
YouTube: 悲しみのゴンドラⅠ S.200/1  
YouTube: 悲しみのゴンドラⅡ S.200/2    

● 番か稿か?
フランツ・リストの日本語版CDを購入されたことがある方はそこで「悲しみのゴンドラ 第1稿」と書かれていたり「悲しみのゴンドラ 第1番」と書かれているのを見たことがあると思います。これは非常に微妙な問題で、結論から言いますとどちらも正しいし、どちらも間違いです。
まずS.200/1とS.200/2の両曲を第1稿/第2稿という風に同じ曲のバージョン違いだと仮定してみましょう。あまり知られていませんが悲しみのゴンドラにはS.200/2の直接の前身となる「ヴェネツィア第1草稿」なるものがあります。これは近年発見され、2002年にイタリアのルッジネンティ社が世界で初めて出版しました。おそらくこれが「悲しみのゴンドラの初稿」と呼べるものであるので、そうなるとS.200/1とS.200/2はそれぞれ第2稿/第3稿と呼ばねばいけなくなります。しかもS.200/1とS.200/2は作曲された順序が逆なのでS.200/1を第3稿、S.200/2を第2稿と呼ばねばならなくなってしまいます。
では逆に両曲を第1番/第2番と別の曲と仮定してみましょう。S.200/1はS.200/2の派生作品であることに変わりはないので、別の曲とみなすのも難しいです。ちなみに両曲ともに「第3エレジー」という副題があります。もし両曲が別の曲だと判断するなら「第3エレジー/第4エレジー」とならなくてはいけないような気がします。
このように「第1稿/第2稿」と呼ぶべきか「第1番/第2番」と呼ぶべきかは微妙なので、当ブログでは呼称を「悲しみのゴンドラⅠ」「悲しみのゴンドラⅡ」としています。

● 順番 
- 1882年: 悲しみのゴンドラ 〔ヴェネツィア第1草稿〕 S.199a (2002年初版)
- 1882年?: 修正譜 "悲しみのゴンドラ" S.701k
- 1883年/1885年: 悲しみのゴンドラⅡ S.200/2 (1885年初版) 
- 作曲年不明: 悲しみのゴンドラⅠ S.200/1 (1927年初版) 

1882年に第1草稿が作られます。そしてリストがある手紙にその作品への9小節の改訂パッセージを書きます。これがS.701kの修正譜です。上でも少し書きましたがⅠとⅡは作曲された順序がおそらく逆です。Ⅰが作曲された年は不明ですが、リストの死が近づいた時期だと言われています。1927年にⅠが初めて出版されるのですが、その時にⅡとセットで出版することになり順序が逆の番号が付けられました。

関連記事: リストのややこしいこと1 -アヴェ・マリア編-  


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May 24, 2013

詩的で宗教的な調べ -幻の1845年稿-

曲集「詩的で宗教的な調べ」の初期の構想について、おおまかな解説はハワードとブルセーのCDの記事で書いたのですが、もう一度整理したいと思います。

● 「詩的で宗教的な調べ」(1834年)と「眠りから覚めた御子への祈り」(1840年?)
ラマルティーヌが「絶望に曝された限られた一部の人々へ」書いた詩集「詩的で宗教的な調べ」に自分を投影し、そのタイトルを拝借してリストが単独曲「詩的で宗教的な調べ S154」を書いたのは1834年です。この曲が同名の曲集の全ての始まりとなります。この曲を書いた数週間後にリストはマリー・ダグーへの手紙で「6曲の詩的で宗教的な調べを書く」ことを言及しています。それからしばらくの間が空き、「眠りから覚めた御子への祈り S.171c」という曲を曲集「詩的で宗教的な調べ」のために作ります。作られたのはおそらく1840年です。この曲は最終稿「眠りから覚めた御子への讃歌」となる曲です。 

● 1845年稿
1846年マリー・ダグーへの手紙でリストは「詩的で宗教的な調べは3分の2は完成した」と言及しています。この時点ですでにリストの中では「6曲の曲集」という考えは変わっていて、さらに大規模にするつもりだったそうです。ワイマールに所蔵されている「スケッチブックN5」に書かれているピアノ曲群の多くがそこへ含むつもりで書いた作品群だと思われます。同スケッチブック内にチェックリストがあり、これが曲集として構想していたものではないかと専門家は推測しています。そのチェックリストの内容は:

2. 変ホ長調
3. ハ短調
4. プロイセン皇太子のエレジー 
5. 巡礼者の行進
6. M.K.
7. ショパン 
8. 変ニ長調 
9. 子への祈り
10. 変ト長調
11. 第2ソネット (嬰ヘ長調)

まず〔1〕がありませんが、これはおそらく1834年の単独曲「詩的で宗教的な調べ S.154」になるのでしょう。
〔2〕はスケッチブックN5収録の「孤独の中の神の祝福」の初稿で、ブルセーは「前奏曲」と呼び、ハワードはS.171d/1と番号をつけたものです。
〔3〕はスケッチブックN5収録の「倦怠」のことです。
〔4〕についてですが、「プロイセン皇太子ルイ・フェルディナントの動機によるエレジー S.168」は初稿が1844年に作曲されています。おそらくこの曲でしょうか。
〔5〕ベルリオーズの「イタリアのハロルド」の「巡礼者の行進」のリストによるトランスクリプションは1830年代後半に書かれたとみられる。ハワードはおそらくこの曲のことだと思っているようです。
〔6〕スケッチブックN5の収録曲です。M.K.はマリア・カレルギスのこと。 
〔7〕何の曲を指しているのか全く不明。ショパンというタイトルの曲を作ろうとしたか?ショパン作品の編曲か?
〔8〕スケッチブックN5収録の「最後の幻影」のこと。
〔9〕おそらく1840年(?)の「眠りから覚めた御子への祈り S.171c」のこと。
〔10〕スケッチブックN5の収録曲。ハワードがS.171d/5と番号をつけたもの。
〔11〕おそらく「ペトラルカのソネット第104番」のこと。

このチェックリストはリストが曲集「詩的で宗教的な調べ」としてまとめようとしたものである可能性はありますが、個人的に言うとなんかまとまりのない曲集のように感じられます(笑)。これがフランツ・リストが1845年稿として考えていた形なら面白いですね。

● マリアの連梼の初稿(1846年) 
1846年に「マリアの連梼」の初稿が書かれています。この曲が「1845年稿に含めるために書いた」のか「1847年稿への発端」となったのかはわかりません。

関連記事: レスリー・ハワード: リストピアノ作品全集 Disc.90 
関連記事: Harmonies poetiques et religieuses (early versions) 


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April 17, 2013

リストのややこしい事1 -アヴェ・マリア編-

フランツ・リストの作品(またその人生も)はややこしい事が多いです。リストのややこしい事をまとめて、少しでもわかりやすいようにしてみようと思います。

まず第1弾はアヴェ・マリアです。アヴェ・マリアと言えばシューベルトの歌曲やバッハの曲をグノーが編曲した歌曲が有名ですが、リストもいくつかアヴェ・マリアという曲を書いています。ここではピアノ独奏曲をまとめてみたいと思います。

● S.173/2 詩的で宗教的な調べ 第2番 アヴェ・マリア 
リストの代表的な曲集の一つと言える「詩的で宗教的な調べ」ですが、その第2曲がアヴェ・マリアというタイトルです。もともとは合唱曲ですが、それをピアノ独奏編曲したものです。チッコリーニの名演が心に響きます。
区別できるように呼称するなら「詩的で宗教的な調べのアヴェ・マリア」か「変ロ長調のアヴェ・マリア」でしょうか。

● S.182 アヴェ・マリア - ローマの鐘 
オリジナルのピアノ独奏曲。レーベルトとシュタルクによるピアノ教本「大ピアノ教程」のために作曲されたものです。あまり演奏される機会はありませんが、リヒテルやハフの録音があります。
区別するための呼称は「ローマの鐘」(これは副題です)か「ホ長調のアヴェ・マリア」ではないでしょうか。

● S.183/2 アルカデルトのアヴェ・マリア 
アルカデルトの曲を編曲したもの・・・と思いきや、この原曲は別人がアルカデルトの作風を模倣してでっち上げたもの。それをリストがピアノ独奏編曲したもの。
区別するための呼称は「アルカデルトのアヴェ・マリア」か「ヘ長調のアヴェ・マリア」とかでしょうか。

● S.504 アヴェ・マリア (Ⅱ) 
フランツ・リストによるモテット「アヴェ・マリアⅡ S.38」をピアノ独奏曲へ編曲したもの。第1稿と第2稿のふたつのバージョンがあり、第1稿はニ長調、第2稿は変ニ長調です。
区別するための呼称は「アヴェ・マリアⅡ」ですかね(Ⅱは「に」でも「ツー」でも「ツヴァイ」でもご自由に)。

● S.545 アヴェ・マリア (Ⅳ) 
フランツ・リストによる歌曲「アヴェ・マリアⅣ S.341」のピアノ独奏編曲です。ルディやハフの録音があります。
呼称は「アヴェ・マリアⅣ」か「ト長調のアヴェ・マリア」でしょうか(同じくⅣは「よん」でも「フォー」でも「フィア」でもご自由に)。

● S.558/12 アヴェ・マリア (シューベルト=リスト) 
ご存じのようにシューベルトの有名な歌曲「アヴェ・マリア (エレンの歌 第3番) D.839」をリストがピアノ独奏編曲したもの。編曲は第1稿(S.557d)と第2稿(S.558/12)のふたつのバージョンがあります。ベルマンによる感動的な名演があります。
呼称はそのまま「シューベルトのアヴェ・マリア」でいいでしょう。

関連記事: リストのややこしいこと2 -悲しみのゴンドラ編-  


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December 23, 2012

フランツ・リストは最高のエレジー作家

エレジー(悲歌、哀歌、挽歌)とは悲しみや嘆きを表現した作品です。自分が知らないだけかもしれませんが、ピアノ曲での花形ジャンルはソナタ、バラード、エチュードなどであり、エレジーはそれほど目立っていると思えません。しかしこのエレジーというジャンルに注目しながらリスト作品を眺めていると、リストにとって重要なジャンルであったのではないかと思えます。ここでリストの注目すべきエレジーたちをいくつかまとめてみたいと思います。

● 2つのエレジー
リストが直接的にエレジーと名付けた作品である「エレジー 第1番 S.196」と「エレジー 第2番 S.197」があります。特に第2番の方は素晴らしい作品で、音楽学者ウィリ・アーペルも「特筆すべき立派な作品」と言及しています。ちなみに他には「ルイ・フェルディナントの動機によるエレジー S.168」という作品もあります。
YouTube: エレジー 第1番 S.196 
YouTube: エレジー 第2番 S.197 

● 悲しみのゴンドラ
「悲しみのゴンドラⅠ S.200/1」と「悲しみのゴンドラⅡ S.200/2」があります。これらは「第3エレジー(Troisième élégie)」と名付けられる予定もあったそうです。ワーグナーの死を予感して書かれたと言われています。上記2つのエレジーは認知されているとは言い難いですが、こちらの悲しみのゴンドラは現在ではリストの代表曲として演奏される機会も多いです。
YouTube: 悲しみのゴンドラⅠ S.200/1 
YouTube: 悲しみのゴンドラⅡ S.200/2 

● エステ荘の糸杉に
巡礼の年第3年全7曲のうち4曲はエレジーです(2、3、5、6番)。ここでは2つの「エステ荘の糸杉に」に注目してみましょう。巡礼の年第3年の第2番と第3番は「エステ荘の糸杉にⅠ」と「エステ荘の糸杉にⅡ」です。エステ荘の噴水の陰に隠れがちですが、こちらの2曲も素晴らしい名曲です。特にⅠの方がよく取り上げられます。
YouTube: エステ荘の糸杉にⅠ S.163/2 
YouTube: エステ荘の糸杉にⅡ S.163/3 

● ノネンヴェルトの僧房 
リスト自身が何度も改訂したほど思い入れのある作品。ほとんど演奏される機会はありませんが、僕はアンスネスのCDでこの作品を知り、その魅力に惹きこまれました。こちらも「ピアノ独奏のためのエレジー」という副題が付いています。
YouTube: ノネンヴェルトの僧房 〔第4稿〕 S.534iii 


これら作品は「素直に美しい」とは言えません。それは醜いと言いたいわけではなく、ある種のグロテスクさや歪さの中に潜む「別の形の美しさ」があると思います。僕は絵画にはまったく詳しくないのですが、例えるならルーベンスの絵画に通ずるようななおどろおどろしさを感じます。

余談ではありますが、リスト以後の作曲家で注目すべき「エレジー」をピアノ作品として書いたのはリスト信奉者であったブゾーニとバルトークです。これは偶然なのでしょうか?


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August 19, 2012

ブゾーニは語る -リストという木-

19世紀後半の偉大なる作曲家、編曲家、ピアニストであるフェルッチオ・ブゾーニのリストに対するコメントです。

"まさにバッハはピアノ技法におけるアルファであり、リストはオメガなのである!" 

"私はリストの弱点を知っているが、彼の美点を見誤っているわけではない。根本的に我々は皆、リストから派生していると考えてよい。その点においてワーグナーも例外ではない。我々の作品の源泉をリストに見出すことができるのだ。セザール・フランク、リヒャルト・シュトラウス、ドビュッシーそしてロシア楽派などは皆すべてリストという木になった枝なのである。" 

Feruccio Busoni著
「Wesen und Einheit der Musik」 
第8章 über Franz Liszt : P184-189 より抜粋 

まず最初のアルファとオメガ発言ですが、僕は依然アルファを原点、オメガを頂点と訳しました。しかし(なんとなく言いたいことはわかりますが)ブゾーニが何を意図しているのかハッキリとはわからないので、そのままカタカナで書きました。アルファを原点、オメガを到達点と訳してもいいかもしれません。
ブゾーニはリスト賛美者だったということを考えると、この意見は若干大袈裟な表現に思われます。しかしフランク、シュトラウス、ドビュッシー、ロシア楽派への影響は明らかで、概ね間違いではないでしょう。フランツ・リストが「未来へ向けて放った槍」はちゃんと次の世代に届いていたのですね。

関連記事: シェーンベルク 「フランツ・リスト その活動と本質」 
関連記事: バルトークは語る -リストの先進性- 
関連記事: ラヴェルは語る -リスト作品の欠陥- 


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July 15, 2012

フランツ・リスト -ビギナーズガイド-

クラシックの作曲家フランツ・リストをあまり知らない、何から聴けばいいかわからないという方のために、リスト入門曲をご紹介したいと思います。

● 愛の夢 第3番
3つの愛の夢という全3曲の美しい曲集の中の1曲です。リストの作品の中で、というだけでなく全てのクラシックピアノ曲の中でも最も有名な曲のひとつです。元々有名な曲ですが、日本ではフィギュアスケートの浅田真央選手がこの曲を使用し、さらに認知度が上がりました。
Youtube : 愛の夢 第3番 (演奏:クラウディオ・アラウ) 

● ラ・カンパネラ 
パガニーニというヴァイオリニスト、作曲家が作った旋律を基にして作った練習曲です。カンパネラとは鐘を意味します。愛の夢同様に非常に有名な曲です。日本ではフジコ・ヘミングの得意曲としても有名です。
Youtube : ラ・カンパネラ (演奏:アンドレ・ワッツ) 

● ハンガリー狂詩曲 第2番
哀愁溢れる部分と楽しげな部分がある曲で洋画などでもよく使用される曲です。運動会の定番曲「クシコスポスト」と共通の旋律も出てきますので馴染みのある方も多いのではないでしょうか。
Youtube : ハンガリー狂詩曲 第2番 (演奏: ベンノ・モイセイヴィチ) 

● コンソレーション 第3番 
美しく聴きやすい小品です。夢見るようなゆっくりした曲です。コンソレーションとは「慰め」の意味です。
Youtube : コンソレーション 第3番 (演奏: ヴラディーミル・ホロヴィッツ) 

● ため息 
演奏会用練習曲の中の一曲。印象的な旋律が美しい曲。
Youtube : ため息 (演奏:クラウディオ・アラウ) 

● マゼッパ 
猛々しく英雄的な曲。超絶技巧練習曲という曲集の中の一曲。人気マンガ「のだめカンタービレ」でもこの曲が演奏される場面がある。電子ピアノのCMでも使用された。
Youtube : マゼッパ (演奏: ボリス・ベレゾフスキー) 

● 泉のほとりで 
そのタイトルが表すように涼しげな曲。「巡礼の年 第1年 スイス」という曲集の中の一曲。
Youtube : 泉のほとりで (演奏: ホルヘ・ボレット) 

● 忘れられたワルツ 第1番 
忘れられたワルツという曲は全部で4曲ありますが、その第1番が突出して演奏される機会が多いです。洗練されたワルツ。
Youtube : 忘れられたワルツ 第1番 (演奏: ヴラディーミル・ホロヴィッツ) 

● 半音階的大ギャロップ 
それほど有名な曲ではないけど、理屈抜きに楽しい曲。
Youtube : 半音階的大ギャロップ (演奏: ジョルジュ・シフラ) 

● リゴレット・パラフレーズ 
ヴェルディのオペラ「リゴレット」を基にしたピアノ曲。華麗で盛り上がる曲。
Youtube : リゴレット・パラフレーズ (演奏: ホルヘ・ボレット) 

● メフィストワルツ 第1番 
悪魔メフィストフェレスの名を冠した不思議な響きの曲。ピアニスティックな曲。 
Youtube : メフィストワルツ 第1番 (演奏:エフゲニー・キーシン) 


以上、フランツ・リストの有名曲を集めてみました。フランツ・リストをあまり知らないという方はこれらの聴きやすい曲から聴き始めてみてはいかがでしょうか。なおこのほかにもたくさん名曲はあります。


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ミッチ at 21:21|PermalinkComments(0)TrackBack(0)