エレジー
December 23, 2012
フランツ・リストは最高のエレジー作家
● 2つのエレジー
リストが直接的にエレジーと名付けた作品である「エレジー 第1番 S.196」と「エレジー 第2番 S.197」があります。特に第2番の方は素晴らしい作品で、音楽学者ウィリ・アーペルも「特筆すべき立派な作品」と言及しています。ちなみに他には「ルイ・フェルディナントの動機によるエレジー S.168」という作品もあります。
YouTube: エレジー 第1番 S.196
YouTube: エレジー 第2番 S.197
● 悲しみのゴンドラ
「悲しみのゴンドラⅠ S.200/1」と「悲しみのゴンドラⅡ S.200/2」があります。これらは「第3エレジー(Troisième élégie)」と名付けられる予定もあったそうです。ワーグナーの死を予感して書かれたと言われています。上記2つのエレジーは認知されているとは言い難いですが、こちらの悲しみのゴンドラは現在ではリストの代表曲として演奏される機会も多いです。
YouTube: 悲しみのゴンドラⅠ S.200/1
YouTube: 悲しみのゴンドラⅡ S.200/2
● エステ荘の糸杉に
巡礼の年第3年全7曲のうち4曲はエレジーです(2、3、5、6番)。ここでは2つの「エステ荘の糸杉に」に注目してみましょう。巡礼の年第3年の第2番と第3番は「エステ荘の糸杉にⅠ」と「エステ荘の糸杉にⅡ」です。エステ荘の噴水の陰に隠れがちですが、こちらの2曲も素晴らしい名曲です。特にⅠの方がよく取り上げられます。
YouTube: エステ荘の糸杉にⅠ S.163/2
YouTube: エステ荘の糸杉にⅡ S.163/3
● ノネンヴェルトの僧房
リスト自身が何度も改訂したほど思い入れのある作品。ほとんど演奏される機会はありませんが、僕はアンスネスのCDでこの作品を知り、その魅力に惹きこまれました。こちらも「ピアノ独奏のためのエレジー」という副題が付いています。
YouTube: ノネンヴェルトの僧房 〔第4稿〕 S.534iii
これら作品は「素直に美しい」とは言えません。それは醜いと言いたいわけではなく、ある種のグロテスクさや歪さの中に潜む「別の形の美しさ」があると思います。僕は絵画にはまったく詳しくないのですが、例えるならルーベンスの絵画に通ずるようななおどろおどろしさを感じます。
余談ではありますが、リスト以後の作曲家で注目すべき「エレジー」をピアノ作品として書いたのはリスト信奉者であったブゾーニとバルトークです。これは偶然なのでしょうか?
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May 27, 2011
レスリー・ハワード: リスト ピアノ作品全集 Disc.17
Leslie Howard
The Complete Liszt Piano Music
ソナタ ・ エレジー ・ コンソレーション ・ グレートヒェン ・ 死の舞踏
Disc.17
1.-13. ピアノソナタ S.178
14. エレジー 第1番 S.196
15. エレジー 第2番 S.197
コンソレーション - 6つの詩的瞑想 S.172
16. 第1番
17. 第2番
18. 第3番
19. 第4番 - シュテルン・コンソラシオン (マリア・パヴロヴナ大公妃の主題による)
20. 第5番
21. 第6番
22. グレートヒェン - ファウスト交響曲 第2楽章 〔ピアノ独奏稿〕 S.513
23. 死の舞踏 〔ピアノ独奏稿〕 S.525
Hyperion CDA66429
Recorded: 1990
〔メモ〕
〔1〕~〔13〕フランツ・リストのピアノ作品の最高傑作。通称「ロ短調ソナタ」。多重構造の単一楽章。シューマンが「幻想曲Op.17」をリストへ献呈した返礼としてシューマンへ献呈。初演はリストの弟子ビューロー。リストの弟子カール・クリントヴォルトがこれを演奏した際にワーグナーが聴き、リストへ「あらゆる概念を超越してこのソナタは美しく、偉大で、愛らしく、深遠で、気高い - まるであなたのように」という手紙を送った。 〔14〕マリー・ムハノフの追悼演奏会のために作られた作品。チェロとピアノ稿やヴァイオリンとピアノ稿などさまざまな稿がある。第1稿である「墓場の子守歌」はDisc.26に収録。 〔15〕リナ・ラーマンへの感謝を込めて作られた作品。音楽学者ウィリ・アーペルはこの曲を特筆に値する立派な作品としている。こちらもさまざまな稿がある。関連作品「ラーマン・エレジーの草稿」はDisc.26に収録。ケントナーやフィオレンティーノの録音あり。 〔16〕~〔21〕美しい小品集。タイトルはサント=ブーヴの詩集「コンソラシオン」より。タイトルは「慰め」とも訳される。フリードリヒ・ニーチェが非常に愛した曲集として有名で、彼は「今日はリストのコンソレーションをかなり演奏した。これらの音が私の中へ深く染み入ることを感じ、私の中で精神的共鳴を起こした」と書き残している。この曲集の初期稿はDisc.26に収録。 〔18〕非常に人気のある作品で単独で取り上げられることも多い。 〔19〕別名「星のコンソレーション」。初版の楽譜に六芒星が付いている。 〔22〕ピアノ作品の頂点が「ロ短調ソナタ」とするなら管弦楽作品の頂点は「ファウスト交響曲」。そのファウスト交響曲の第2楽章をピアノ独奏曲としたもの(第1、第3楽章はピアノ独奏編曲していない)。ゲーテの「ファウスト」の登場人物グレートヒェンの音楽的肖像。非常に美しい旋律で綴られている。 〔23〕ピアノとオーケストラの協奏的作品として有名な作品のピアノ独奏編曲。グレゴリオ聖歌「怒りの日」を主題とする変奏曲形式。ちなみに近年フィギュアスケートでよく使用される。ピアノ協奏稿の最終稿はDisc.95に収録。
「標題音楽(プログラム・ミュージック)の旗手」であったリストの最高傑作が、絶対音楽の象徴のようなソナタというのは面白い事実です。それからリストの「ロ短調ソナタ」が単一楽章で、シューマンの「幻想曲Op.17」がソナタ風の3楽章なのも面白い。
コンソレーションに関しては、もとがサント=ブーヴの詩なので「コンソラシオン」とフランス語風に呼称したほうが良さそうですが、「コンソレーション」と英語風の読み方が定着しているのでそれに従います。
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HMV : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
タワレコ : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
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